市民風車は、多くの皆さんに支えられて回り始めます。
クリーンな電気は、人、街、モノ、コトをつなぐエネルギーも届けます。
ここでは、市民風車を介してつながったさまざまな皆さんをピックアップ。
一人ひとりの想いを紹介していきます。

連載09ファンドを通じて利益を地域に

株式会社自然エネルギー市民ファンド代表取締役 吉田幸司氏(左)
株式会社市民風力発電代表取締役 鈴木亨(右)

市民出資

市民ファンド(市民出資)とは、再生可能エネルギーやまちづくりなど、公共性や社会性の高い特定の事業に対する出資を市民から 募り、事業で得られた利益を出資者や地域に分配・還元する仕組み。2000年代に入って広く知られるようになり、全国各地の市民風車の建設や太陽光パネルの設置を後押しする大きな力になった。

株式会社自然エネルギー市民ファンド

2003年2月、NPO北海道グリーンファンドは市民出資のスキームを活用して「はまかぜ」ちゃんの建設を実現した後、市民参加型の風力発電事業を全国に広めるため、出資を募集する事業会社としてNPO環境エネルギー政策研究所と共同で「有限会社自然エネルギー市民ファンド」を東京都中野区に創業(2003年に株式会社へ移行、2022年に東京都千代田区へ移転)。現在、風力、太陽光、バイオマス発電など、全国各地の自然エネルギー事業を地域市民の出資を組み込むことで側面から支援し、得られた利益を地域や市民に還元している。

全国の市民に出資募集を呼びかける

鈴木
自然エネルギー市民ファンドさんは今年創立20年ということで、まずはおめでとうございます。
吉田
ありがとうございます。とは言っても、2019年までは鈴木さんが代表取締役でしたが(笑)。
鈴木
吉田さんが関わるようになったのは?
吉田
2015年からですね。創立20周年ということで、今日は改めて設立の経緯を伺いたいと思います。
鈴木
2001年に市民風車第1号の「はまかぜ」ちゃんを浜頓別に建てましたが、当初はまだ一般市民の方に事業に参加してもらうという理念があったわけではなかったんですね。風車建設のための資金を借りようと思って銀行をいろいろ回ったものの、できたばかりのNPO(北海道グリーンファンド)にどこもお金を貸してくれない。そんな中、1行だけ「総事業費約2億円うち6000万円を自分たちで調達できたら融資を検討してもいい」という東京の銀行があったんです。そこでNPOの理事会の中で「いくらまでお金が出せる?」「50万円だったら出せる」「100万円だったら何とか」「じゃあ、ちょっと、友達とか知人に声をかけてみる」と話がだんだん広がって、結果的には1億4000万円余りを集めることができました。そうやって1号機の「はまかぜ」ちゃんに続いて、2003年には秋田に「天風丸」と青森に「わんず」を建てようとしたものの、地元だけで資金を調達するのはなかなか難しい。そこで全国にも呼びかけてみようということになり、特定のプロジェクトに対する全国の市民の皆さんに向けて出資募集を呼びかける事業会社として2003年に有限会社自然エネルギー市民ファンド(代表取締役鈴木亨)を設立したわけです。
吉田
2007年9月に金融商品取引法ができてから、事業環境が変わりましたよね。
鈴木
そうそう。「はまかぜ」ちゃんの時代は、発電事業者 が自分たちで資金を募集することができたから、良かったんです。でも金融商品取引法ができて、金融商品取引業者としてのライセンスがないとファンドを組成できなくなってしまいました。
吉田
ファンドに対するルールがどんどん厳しくなっていく中、鈴木さんはそれほど詳しくないので焼きもきしていた時期に私と会い、そこから外部としてお手伝いするようになったんでしたね。
鈴木
そのころはNPOの中でも「これからは専門的にやっている人に任せた方がいいよね」という話が出ていたんですよ。私たちが金融の会社をつくりたかったわけではなく、多くの市民に参加してもらいたいという思いでしたから。それで、以前から協力してもらっていた2019年に吉田さんに後任を引き受けてもらいました。ありがとうございます。
吉田
私が関わるずっと前ですが、ファンドを最初募集した時はどんな感じだったんですか。
鈴木
20年前は結構いろいろ呼びかけたというか。初めてでしたからね。地元枠なんか、青森県の鰺ヶ沢町と青森市内だけで10ヵ所ぐらい説明会をやったんじゃなかったかな。今は短い期間で枠が埋まり、逆にご迷惑をかけているぐらいですが、当時は簡単にいかなかった。
吉田
それに比べて今は銀行さんがお金を貸してくれるので、ファンドを使わなくても資金を調達できます。市民風力発電さんの場合は昔からのつながりもあり、市民風車を建てる時に市民ファンドを組み込むことで地元や一般市民に還元しています。しかし大手の再エネ発電事業者さんは、なかなか組み込んでくれない。というのも、地域貢献をやらなくても発電設備を建設できるからだと思います。我々としては市民風力発電さん以外にもどんどんファンドをやりたいんですけれど、なかなか実現しない のが現状です。
鈴木
ところで、今まで組成したファンドの数はどれくらいですか。
吉田
全部で22本、そのうち風力発電が13本、太陽光発電が9本です。22本のうち6本は既に契約期間を終了していまして、今年も1本終了することができました。出資金を元本割れすることなく、最後まで決めた投資利回りでお返しできています。
鈴木
投資してくれた皆さんに対する責任を果たせていることに、私としても安堵しています。

洋上風力フォーラムでブース出展

鈴木
ところで、7月20日に札幌で開かれた「WIND HOKKAIDO〜北海道洋上風力フォーラム2023」に自然エネルギー市民ファンドさんもブース出展されたそうですね。
吉田
ええ。洋上風力事業にも市民ファンドをぜひ組み入れていただきたいと思いまして、スポンサー企業として出展しました。
鈴木
どんな方がブースに訪ねて来られたのですか。
吉田
やはり洋上風力への参入を目指している発電事業者さんや、地方銀行さんが多かったですね。鈴木さんが参加されたパネルディスカッション(「洋上風力は漁業と共に栄える未来を描けるか」)の後は、「御社の社長は本当にいい取り組みをされていますね」と声を掛けていただいて。まあ、弊社の社長ではないのですが(笑)。地銀さんには仮に資金調達にファンドを組み込むとしたら、どういう仕組みになるかといったあたりを説明しました。
鈴木
地元の金融機関さんは、洋上風力に期待が大きいでしょうね。
吉田
そう思います。地銀さんからすると一部融資を始めるにあたり、ファンドの仕組みを理解しておきたいと考えたのかもしれません。逆に東京にいる我々が地銀さんと知り合えたことは、大きなメリットです。例えば北海道でファンドを募集する場合、東京からその都度行って募集活動をしてもよいのですが、どうしても力が弱い。地元の皆さんからの信用性を考えれば、地銀さんや地元の金融機関さんに協力していただけるとありがたい。ですので、実はこちらからお話しさせていただきたいと思っていたんですが、向こうから来ていただけました(笑)。それ以外にも一般の市民の方にもたくさん立ち寄っていただきました。20年前から市民ファンドをやっているとはいえ、知らない方が圧倒的に多いので、これからどうやって市民ファンドを知ってもらうかが課題だと思っています。
鈴木
今ファンド募集のPRはどのようにされているのですか。
吉田
もちろんホームページでも告知しますが、既存のお客様にフライヤーをその都度送っていまして、そちらがメインになります。今年の1月から4月まで秋田で新しいファンドを募集していたんですが、その時は地元で説明会を何回か開いたほか、地銀さんの支店にポスターを張らせてもらうなど、協力していただいています。

現物配当で地方情報を全国に発信

吉田
鈴木さんの方から、我々に何か要望や期待はありますか。
鈴木
そうですね。今までは出資してくれた人に、オープニングイベントなんかの時に声を掛けたり、いろいろやっていたんですが、この間コロナ禍もあり、できていなかったですね。そういう出資者ツアーとか、地元のイベントを企画して参加してもらったり、配当の現物支給なんかを企画してもらえると面白いなと思いますね。昔から食べ物などのアイデアがあったんですが、事故やクレームを考えなくてはならないので、踏み切れなかった。でも今はふるさと納税で全国の自治体が特産品を盛んに返礼しているわけだから、可能性はいろいろあるのかなと思いますね。
吉田
それに関しては、地域商社に「いくらくらいの商品を送ってください」と委託する方法があります。それだと、こちらを経由しないで現物を届けられます。
鈴木
なるほど、そういう形でもできるか。そうですね。あと、電気の配当などはどうでしょう。
吉田
地元でつくった電気を、地元の事業者さんが買いたいといったニーズは以前からもあります。その場合、再エネ電気を小売電気事業者 から買う方法もあるけれど、地元の事業者さんが自分の電気をつくるために出資して、地元の風車がつくった電気を配当としてもらう仕組みもアリかなと思うんです。自分たちで電気をつくり、その電気を自分たちで電気も使う。そのあたり、何か支障はありますか。
鈴木
いや、特にありません。面白いと思います。説明会でもよく聞かれるんですよ。「この電気は買えるのか」とか、「安くなるのか」とか。ただし、ご存じのように電気を売るには小売電気事業者というライセンスが必要です。
吉田
現状では小売電気事業者に協力してもらう 必要がありますね。
鈴木
まあ、付き合ってくれる会社はいると思いますよ。結構、面白がってもらえるんじゃないかな。
吉田
我々としては、そこに出資した上でそこの電気が買える仕組みをつくりたいなと思っています。
鈴木
昔デンマークでは風車の半径10キロ以内の人しか出資できなかったけれど、そんなイメージに戻ってくるのかな。この間の秋田の時(風の杜男鹿ファンド2023)は半分が県民枠でしたが、地域枠は今後もあった方がいいと思いますね。繰り返していけば、希望者も増えてくるはずです。
吉田
わかりました。地方枠はやりましょう。ただ、地域枠の募集はなかなか大変で、投資に慣れてない地方の方々になかなか理解していただけなくて。
鈴木
何と言っても、地方の人からすればファンドというだけでいかがわしく響きますからね。ましてや匿名組合となると、さらにいかがわしく受け取られてしまう(笑)。
吉田
ファンドというと現金を返すだけというイメージがあると思うんですが、今我々がいろんな発電事業者さんにお伝えしているのは、「そういう仕組みだけじゃなくて、特産品を返す方法もあるよ」と。
ファンドの出資者が全国から集まれば全国に情報発信ができ、そうやって地元を知ってもらう取り組みをされてみてはとお話ししますね。再エネを知ってもらい、発電所を見学してもらい、ついでに地元も観光してもらう、そんなストーリーでやっています。
鈴木
10月に秋田で出資者ツアーをやるそうですね。
吉田
1日だけですが、2ヵ所の風車(「風の杜おが」「市民風車ぽんぽこ」)を回る予定です。20組限定で参加者を募集したのですが、2週間ぐらいでほぼ埋まり、キャンセル待ちが出そうです。
鈴木
申し込んだ方はどんな方が多いですか。
吉田
地元の秋田の方もいますが、半数以上が県外からです。「秋田に行ったことがないから参加したい」と言う方もいらっしゃいました。
鈴木
次は北海道でお願いします。
吉田
ぜひとも 。加えて、説明会プラス見学ツアーというか、発電所を見てからどこかでファンドの説明会を開くというのもあるのかなと思っています。

「再エネ当事者」の裾野を広げる

吉田
実は弊社では市民の皆さんに、ファンドへの出資の動機についてアンケートを取っていまして。回答を集計すると、「投資先として興味があるから」は15%で、それ以外の人は「温暖化問題に関心があるから」「地元の取り組みだから」購入したなど と答えているんですね。ですので、弊社としては「地域貢献としてのファンド」を訴えることで、そこに共感する人たちがもっと集まってくれるのではと期待しています。
鈴木
ファンドに興味を持っているのは、若い世代が多いのでしょうか。
吉田
そうですね。20代、30代、40代前半という皆さんが、投資に興味を持ってくれます。
鈴木
ファンドは資金調達の側面はあるものの、今はどちらかというと地域への還元の色合いが強いのでは。だから、できるだけ若い人にファンドに参加してもらって、エネルギーや環境、気候変動といった問題の当事者になってもらいたいと思うんです。60代とか70代とかになると、投資にお金を回すことに極めて臆病ですが、今の若い人たちは違ってきているのかもしれない。
吉田
投資に関して若い人たちは「給料が上がらないから投資しなければ」という思いから、弊社のファンドに限らずいろいろな投資に興味があるようです。再エネはどうしても発電事業者主体になってしまうところを、出資することで皆さんが自分のこととして問題を捉えるきっかけになると思います。そういう意味で弊社としては市民の皆さんから出資を増やしたいですし、そのことが結果としてカーボンニュートラルや温暖化防止 につながっていくと思います。
鈴木
そうですね。日本社会が変わっていく1つのピースとしてファンドが役割を果たし、さらに再エネ当事者の裾野が広がっていくことが重要だと思いますね。
吉田
その先導役を僕がやります。
鈴木
心強いですね。よろしくお願いします。