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連載08有機廃棄物を
「廃棄」しない社会へ

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含水量の多い有機廃棄物を原料として、嫌気性の微生物が分解することで発生するバイオガスを製造・収集するバイオガスプラント。酪農・畜産業が盛んな北海道では家畜が排出するふん尿の臭気対策や水質汚染抑止を図ると同時に、資源として活用することで経営の下支えするツールとして認知が広がっており、2020年3月現在95基が稼働している。

バイオマスリサーチ株式会社

2007年4月、菊池貞雄氏が建設コンサルタント会社勤務を経て北海道帯広市に設立。酪農・畜産業の課題である家畜ふん尿対策を中心に、各市町村におけるバイオガスプラントの可能性調査や導入に向けた計画づくりなど、酪農振興や地域振興を支援している。2017年11月には、ソーシャルビジネス分野などで10数年来の付き合いがあった株式会社市民風力発電の鈴木亨とタッグを組み、バイオガス発電を一貫して支援する新事業をスタート。日本の農業とエネルギーを通した地域自立を目指し、新しいモデルづくりへの挑戦が始まった。

バイオマスとの出会いから10年後の起業

北海道には酪農や畜産が基幹産業の地域が多い。そこに10年ほど前からバイオガスプラントが目立って増えてきた。その多くの導入を調査段階から支えてきたのが、バイオマスリサーチ株式会社である。代表である菊池貞雄さんがバイオマスを知ったのは1997年。京都で3回目となる国連気象変動枠組条約の締約国会議が開催され、「京都議定書」が採択された年のことだ。

当時は帯広市にある農業系の建設コンサルタント会社に勤務し、道内各地で農村地域の交流施設や活性化施設などの計画づくりに携わっていた。そんな折、「バイオガスプラントを導入すると水質汚染が防げる、悪臭が大幅に減る」という話に興味が湧き、会議に出席したデンマークの技術者を北海道へ招いてシンポジウムを開いた。酪農・畜産農家にとってとりわけ家畜ふん尿の処理の負担が大きく、臭いがきつい上に運搬するのに重労働が強いられ、処理コストもかかる。こうした厄介な問題が、バイオガスプラントを導入することで大幅に軽減されるという。そのうえ、エネルギーを熱として利用したり、電気も売れる、良質な肥料まで作れるというのだ。バイオガスの普及こそが酪農業や畜産業を守り、地域の活性化につながると確信した。

その後は会社勤務のかたわらNPOを立ち上げ、バイオガスの研究に取り組み、各地で自治体やJA、農業者に向けてセミナーや勉強会を開いた。だが、コンサルタント会社としては設計まで請け負えばお金になるが、そこで暮らす人の生活感情や課題意識を把握する調査の仕事に十分な予算がつかず、独立にはためらいがあった。しかし、バイオガスプラントを普及させ、ふん尿処理の課題を解決しなければ北海道の酪農に伸びしろはない。意を決して起業したのが2007年。バイオガスの出会いから、ちょうど10年が経過していた。

酪農経営を下支えしているプラントの実態

北海道江別市に位置し、広大な原始林を擁する野幌森林公園に接する緑豊かな環境の中で、昭和7年(1932年)から酪農業を営む有限会社小林牧場。搾乳するホルスタイン牛は約300頭、約185haの牧草地とデントコーンを栽培する飼料畑を有し、札幌近郊では屈指の経営規模を誇る。また、搾りたての生乳は車で10分ほどの乳業メーカーに出荷され、『小林牧場物語』ブランドの牛乳・乳製品として全国で販売されている。

2011年に、フリーストール牛舎を新たに建設して飼養頭数を増やすことを計画。近隣の住宅や学校から臭いについて不満の声が上がっていたことから、これを機に臭気環境を改善するためバイオガスプラントの導入を決めた。搾乳牛のふん尿は全量がプラントに集められ、嫌気性処理されることで悪臭を除去。製造されるバイオガスは当初ボイラーによるプラント施設の加温などに熱利用していたが、固定買取制度(FIT)の施行を機に発電機を購入し、現在は売電を行っている。

副産物である発酵消化液(液肥)は、牧草地や畑に撒かれて養分に。さらに繊維質の資材は乾燥を経て大腸菌等がいない敷料として再利用され、かつての藁に代わって乳牛の体を守っている。健康な土から健康なエサへ、健康なエサから健康な牛へ、健康な牛から再び健康な土へ。ふん尿を資源として活用する循環酪農が実践され、バイオガスプラントが酪農経営をしっかりと下支えしていた。

※フリーストール牛舎……牛が自由に動き回れ、ストレスがない放し飼いの牛舎。

パーツを自社設計して地元の業者に提供

バイオマスリサーチでは、自治体からの地域構想の発注を受け、要望を踏まえて「バイオガスまちづくり計画」を立案するところからスタート。地域の現状や課題についての情報収集、バイオガス事業への理解醸成のための勉強会、事業の実現可能性調査、種類決定、運営方法やファイナンスについて関係者との合意形成・協議というステップを踏み、5〜6年かけてプラント導入を支援している。

これまではコンサルが中心だったが、3年前からは発酵槽や脱硫搭といった250頭クラスの小型バイオガスプラント設計も手がけ、地域業者がバイオガスメーカーになる仕組みを開発し、すでに宮崎県で稼働している。設計まで業務を広げた理由は、コンサルだけでは思ったモノができないからだという「自分たちは建設会社ではないですが、プラント設計を行うことはできます。各農業者に最適なプラント設計をおこなうため、3年、4年と調べ、『この方式が良いです』と提案し、建設会社にそのノウハウを提供して、建設工事発注時の情報の断絶を解消しています。発酵槽や脱硫装置などのパーツは自社設計、建設会社に供給したいと考えるようになりました」

バイオガスプラントで重要なことは、修繕とメンテナンスである。それがしっかりできないと、事業として続かない。パーツを自社設計して地元の建設業者に供給しているのは、トラブルがあったときに迅速に対応できるためである。「中小の建設業者が各地域でプラントを建て、発電もできて、メンテナンスもできる。建設業が環境メンテナンス業にもなっていく。そんな会社に育ってくれたら」と菊池さんは話す。

バイオガスは「循環型経済」のさきがけ

バイオガスプラントの建設には多額の初期投資が必要であり、農家や組合の中では魅力を感じつつも資金調達が壁になっているケースが少なくない。そこでバイオマスリサーチとNTT東日本が共同出資した「ビオストック」では、個別型バイオガスプラントを月額定額制で利用することができる画期的なサービスを開発し、導入を後押ししている。

実は市民風力発電の代表・鈴木亨と菊池さんは10数年にわたる付き合いがあり、エネルギーを通して地域の経済的自立に取り組む仲間でもある。2017年11月には2社が共同で「バイオガスエナジー」を設立。バイオガスプラントの新設・稼働に必要な資金調達や地域の合意形成、建設、運営面、さらには地域振興を目指すSPC(特定目的会社)の設立支援など、風力事業で培ったファイナンス、事業組成などのノウハウを活用してバイオガス発電事業をトータルに支援する、ユニークな会社が歩み始めた。

最近「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という言葉をよく耳にする。これは、従来の一方通行型経済モデルの中で廃棄されていた製品や原材料などを資源として捉えて、循環させる経済の仕組みをいうらしいが、バイオガスプラントを活用した地域づくりは、そのさきがけといえるのではないだろうか。バイオマスリサーチでは、あらゆる有機廃棄物をバイオガス処理して肥料に換える実証実験を行う農場を造り、肥料会社の設立も近々予定しているという。志を同じくする多くの人たちと協力しながら廃棄がない社会をリードしたい、そのために人材を育てたい—。菊池さんの夢は、終わることがないようだ。

※株式会社ビオストック https://biostock.co.jp/