市民風車は、多くの皆さんに支えられて回り始めます。
クリーンな電気は、人、街、モノ、コトをつなぐエネルギーも届けます。
ここでは、市民風車を介してつながったさまざまな皆さんをピックアップ。
一人ひとりの想いを紹介していきます。

連載04個人事業主の
気持ちで風車を守る

メンテナンス

強い風が吹く場所に建てられた風車は、過酷な自然条件にさらされている。トラブルは起きてほしくないが、必ず起きてしまう。だから、予防が大事だ。メンテナンススタッフは、風力発電事業の現在と未来を支えている。

渡邊 剛士Takeshi Watanabe

秋田県能代市出身。電気工事会社を経て2015年に入社。技術部マネジャーとして、風力発電設備・機器の日常点検・定期検査を実施し、予防保全に努めている。また、電気系・機械系のトラブル発生時には速やかに対応。発電所の安定運用を日々支えている。1男1女の父。

強風の中で作業した日は自宅でも体が揺れる

秋田県は当社の発電所が最も多く、現在10基が稼働中だ(2017年10月現在)。渡邊は3人のスタッフとともに県内にある全施設の保守点検を担当する、メンテナンスグループのリーダーを務めている。

2年前までは、首都圏の電気工事会社に勤務していた。が、子どもたちが成長するにつれて「いつか秋田に戻りたい」という思いが募り、再就職先を探し始めた。あらためて故郷について調べてみると、自分が暮らしていた当時はなかった風力発電所がたくさん立っていることに気づいた。これなら同じ電気設備だし、自分でもできるのではないか。そんな思いから応募し、願いがかなった。

普段は風力発電所のデータを収集したり、予防保全に努め、突発的なトラブルがあった時は現場のタワーへ急行する。発電機や増速機等が設置されたナセルがあるのは、地上高70〜80m。相当な高さだが、電気工事会社勤務の時も電柱に昇ったり、高所作業車に乗っていた渡邊はさほど苦ではない。『ただ、風速12〜13mくらいになると、上の方は揺れるんですよ。強い風の中で作業した日は、家に帰ってもまだ揺れている気がして、地震と勘違いすることも多いです』と笑う。

目と耳によるチェックで風車の体調を診る

改めて業務内容を紹介すると、日常点検ではブレードがちゃんと3枚付いているか、大きな風切り音が聴こえないか、ローターの旋回時に異音が聴こえないかなど、目と耳で風車の体調をチェックする。月次点検ではタワーに昇って、ナセル、ブレード、ハブ内を点検・清掃。半年点検では、メーカーのマニュアルに沿って4〜5日間かけて指定された個所を目視点検し、ギアオイルフィルターを交換し、グリースを注入していく。年次点検では、オイルフィルター・潤滑油フィルター・油圧オイル・潤滑油・作業油・発電機ブラシの交換、グリースの注入、ボルトの増し締めが主な項目だ。

『やればやるだけ、機械は健康になる。そこは車と変わりません。何もしなくても当面は動くかも知れませんが、いつか必ずトラブルが起きます。発電設備がそうならないよう、設備を計画通りに稼働させることが、自分たちの役目です』

再稼働までの時間をいかに短縮するか

風が強い場所に建てられた風力発電設備は、日常的に電気系や駆動系のトラブルが発生する。また、落雷は小さいものを含めると1年に20〜30回くらいあり、深刻なケースになるとブレードに穴が空くことも。その時はクレーンの先に空中作業用のかごを付けて昇り、サンダーで磨いてFRP(繊維強化プラスチック)を吹き付け、パテを塗って4、5日乾かして補修することになる。

落雷の過電圧は、電気部品にさまざまなトラブルを引き起こす。これを予防するため制御盤には異常電圧を感知すると電気を停めるSPD(雷保護システム)が付いているが、完璧ではない。加えて落雷によるトラブルは原因の特定が難しく、風車メーカーに調査を依頼しても、はぐらかされることが多い。そのため、渡邊たちは監視装置を注意深く観察し、異常の兆候が現れたらただちに調査して予防に努める。どんな小さいトラブルでも必ず修理の作業要領書を作成し、その時の対応を詳細に記録しておく。そうやってグループの経験知を上げることが、再稼働するまでの時間短縮につながると確信している。

『ウチは小さいですけど、社員1人1人が個人事業主みたいに自分の風車を守るんだっていう気持ちで仕事をしています。組織も横一列でまとまっています。ベンチャー企業だなって思いますね』

風力発電メンテナンスの先駆けに

入社以来、メンテナンス以外にも昨年運転を開始した羽川(コープ東北羽川風力発電所)のプロジェクトにも携わり、請負業者さんの監督にアドバイスをしたり、役所に書類を申請するといった、それまでになかった経験ができた。誰に聞いても原因が特定できないトラブルも多いが、そういうところも技術屋としては面白い。

風力発電設備は、10年を過ぎたあたりからトラブルが起きやすくなる。つまり、メンテナンスグループの出番もこれから増えてくる。設備稼働率を高く維持するため、責任は重大だ。今は一生懸命に技術を磨いて風力発電メンテナンスの先駆け的な存在になれたら、というのが渡邊の夢だ。